愚者は桜の咲き薫る月初めに笑う

この4月1日、僕は新たな決心をしました。
新作を――作ります!
プロローグは出来ましたので、後は勢いで突っ走るだけだっ!!




よく眠ったような気がする。
目を覚ますのが惜しくなるくらい、その眠りは甘かった。
時間の感覚は無かった。時間なんて、夢の中には必要ない。あったって邪魔なだけだ。
その時間は、途方も無く長く感じた――。

しかし、このまま夢の中に閉じ込められるのは嫌だ。
私には、待っている人がいるもの。
(流石に起きなきゃな……)
私はぼんやりと目を開けた。






目を開けると、体全体に感覚が戻ってくる。
本来なら、起きると何とも言い知れぬ開放感が漂ってくるのだが――?


(な……? 何なのよ、これ!?)


両腕に、胸に手首に。下肢全体に。
私の体に、私のものではないナニカが巻きついていた。
(動けない…………っ!)
身を捩ろうとも、それは解かれるどころか、ますます私に食い込んでくる。
両腕は背中で組まれ、それ本来の自由を奪われていた。
両足は大腿までナニカで括られ、起き上がることすらままならない。
「んっ――! んんーっ、んんんーっ!!」
さらには、口までその機能を失っていた。
口の中に布のような物を嵌め込まれ、その布を抑えるかのように、私の口から後頭部にかけて布切れが通っている。
(ダメッ、これじゃ喋れない……)


何が起こったんだろう?
どうしてこうなってしまったんだろう?
思考がめちゃめちゃになりそうだ。
(どうして私がこんな目に……?)
何で? 誰が何のためにこんな事を……?
このような状況に陥った原因を探そうと、思考を巡らせた矢先――。


「ウフフ、良い格好ですねー」
「!?」
周りは薄暗く、声の主をはっきりと視界に捉えることは出来ない。
しかし、その高く、そしてのんびりとしたその声質。
私はその娘を、覚えている。……だからこそ、おかしいのだ。不思議なのだ。


「何だか不思議そうな顔をしてますねぇ、先輩」
「んんーっ! んんっんんん―――っ!!」
「あはは、何言ってんのか判らないよ! 面白いねー、猿轡って。口にモノを詰め込むだけで声が出せなくなっちゃうんだもの」
その言葉に、私の背筋は震えた。猿轡をして面白いだなんて言うとは、正常な感覚だとはとても思えない。
「それにこの縄……。いいねぇ縄くん、先輩の動きをギッチリ止めてくれるんだものねぇ。大好きだよ」
(ひっ!?)
心の中で、思わず悲鳴をあげた。私の体を縛っている縄を『大好き』だなんて言う神経がおかしい。
目の前にいる人――、否。目の前の存在は一体何者なのだろうか……?


「大丈夫、そんなに怖がらないで下さいよぉ。先輩を取って食うつもりはありませんから。
 ただちょっと、お灸を据えないといけないんですけどね?」
彼女の眼に鈍い光が宿っているのを、私は見逃さなかった。
「すこーし痛い目を見てもらうだけですよ……」
声のトーンが下がり、不気味な空気がそこに漂う。
「先輩には、トータくんを忘れてもらいます。
 忘れてくれればすぐに解放しますけど、そうじゃないならお灸は強くなっちゃいますよ?」


ああ、それが彼女の理由か。
私は納得した刹那、屈服する訳にはいかないという決意が込み上げてきた。