あじさい
ゴールが見えないよう。
#1 あい 11 「あぁ、そうだ。今テレビかかってるか?」 義人は、突然神妙な面持ちでテレビの方向へ向いた。 「かかってやがるな。ったく、これのせいでエライ迷惑食らっちまったぜ。 どうして俺ん家の近所でこんなのが起こるんだろうな」 テレビでは依然として『殺人事件』のニュースを垂れ流していた。 「何? アンタもしかして、この事件の犯人じゃないでしょうねー」 私は義人をからかおうと思って、軽い冗談を言った。 『ガハハハハ! 俺が犯人だったらどうするよ!? ついでに梓も襲っちまおうかっ!?』 なんて、軽い答えを期待していたのだが。 「……まさか、俺はこんな事しねぇよ」 重苦しい答えだった。 彼が物事を否定する時は、馬鹿な事を言いながらサラッと流すのが常だったのだが。 今回の答え方は彼らしからぬ、何だか引っかかる物言いだった。 「何というかよ……、殺され方が殴ったとか刃物で刺したとかそんなんじゃねぇんだ。 至る所からチとニクがはみ出てよぉ、何かに食いちぎられたような、そんな感じで――」 義人の言葉はとても生々しかった。衝撃の場面に遭遇した彼だからこそ語れるのだろうが。 彼のあまりにも淡々とした口調に、私は薄気味悪いモノを感じた。 「あの傷口――、あれは犬なんかじゃねぇ。もっと綺麗に堪能しているっていうか、何ていうか――」 「止めてよっ!」 甲高い声が、店内にこだました。出した自分もビックリするくらいの声量だった。 私は、耐えられなかった。 こんな話をする義人もそうなのだが、ここ『かくれみち』はそんな暗い話をする場所ではないはずだ。 「もういいから、義人。その話は止めにして」 殺人事件の現場を見た義人は、その情景を誰かに語りたくてうずうずしていたに違いない。 でも、そういうのを聞きたくない人だっている。もう嫌だよ、そんなの。 そんな情景、もう忘れたいんだから――。 ……忘れたい? 「あずさもそう言ってるんだから。義人さん、でしたっけ? ランチが出来るまでゆったりと待ってましょう?」 澱んだ空気を正常なモノに換えてくれたのは、亜衣だった。
だからゴールが見えないってば!