文章練習 = かれのふでばこ

もう、10分とかそんなのいいや。
とりあえず、さっさと書いてしまおうっと。

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今、和真くんとキスをしている。
うん、間違いなく、この温もりは和真くんのだ。
この光景を見れば、あの娘も黙ってはいないはず。
きっと、癇癪を起こして、彼の目にそれが映って。
そして私は、悲劇のヒロインを演じて、彼の同情を誘う。


幼稚園のときから。
小学校も、中学校も高校も1学年下の、近所でとてもかわいらしい、和真くん。
貴方の、そのかわいい顔、男の子なのに華奢な体付き。
和真くん。私の幼馴染で、私のお友達で、私の男の子。
いつか、その体を、私のものにするため。
今年、最後のチャンスだから、何とかするために。
かずまくんは、ぜったいに、わたしのものだって、わたしがきめたんだから。
それいがいの■■■は、すりつぶしてつちにかえしてもしたりないわ。


私は、和真くんにキスする為、そして彼女にこの光景に出くわさせる為に、仕組んだ。


まずは和真くん。
もともと初心(ウブ)な子だから、少し色気を振りまけば、大丈夫。
『今日の放課後、校庭で話したい事がある』
幼い時から、私の言うことなら何でも聞いてくれた。
その昔、泥団子をあげて「食べてくれなきゃキライになる」って言った時も、
涙を流しながら食べてくれたっけ。
それくらい出来るんだから、校庭に誘い込む事なんて朝飯前だった。
問題は、あの娘。
えぇっと、名前はスエナガハルノって言うんだっけ。そんなのどうでもいいや■■■なんだし。
あの娘は授業が終わった直後にバイトに行く事は判っていた。
しかし、あの娘の筆箱に対する執着も知っていた。反吐が出るほどに。
そこで筆箱を盗むというわけ。
ったく、本当は私が貰わなきゃいけない筆箱を、大事そうに持っていたのよね。
あの娘が6時限目の体育の授業の時、私は授業を仮病で休んで、その娘の部屋に潜り込んだ。
そして筆箱だけ私のものとして、シャーペンやら消しゴムやらは燃やしてやった。
筆箱を忘れたと勘違いしたあの娘は、必ずここへ帰ってくる。
その、タイミングを見計らって――。


「あ……、貴方達……。一体、何しているのよ……」
「は、春乃っ!?」
あは、予想通りの展開。望んでいたシチュエーション。
私は言う。私の台本に書かれている、セリフを。
そして、彼女を絶望の淵へと陥れる、言葉のナイフを――。


「和真くんは私の愛を受け入れてくれたの。だから、キスもしてくれたの。
 貴女なんかよりも、ずっと深い愛を――」


パァ――――ン!


その平手が、私の頬に炸裂した。




……こういう、ちょっと変わった女の人を描くのは楽しいって思うのはどうなんだろう。